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by ruhiginoue

検証ー植草氏の裁判

 経済学者の植草氏が実刑判決確定により収監されそうで、選挙が迫ったこの時期を狙ってのものだと言われるタイミングである。彼はもともと、最近の鳩山総務相辞任(事実上更迭)に関わる一連の経済問題で政府側の不正を前から告発してきたし、その後は、著書やブログで政権批判と政権交代を訴え続けて来たのだから、言われても当然だろう。
 しかし、当ブログは法律問題が中心で、そこから政治経済その他にも関わるというスタンスをとっているので、植草氏の裁判について特に検討してみよう。

 まず、いつもノロノロとかモタモタなどしていることで悪評高い裁判所が、なぜか選挙の時期はやり過ごさずに、堀江もと社長が時期を狙いすましたように民主党を名誉毀損で訴えたのに続いて最高裁の決定を出すというのは、デリカシーが無さ過ぎる。
 
 しかし、ほんとうの問題は裁判の内容である。
 
 今回の判決確定した事件は、植草氏が酒を飲んで帰宅する途中の電車内で女性の身体に服の上から触ったため痴漢行為とされたもの。
 女性当人が被害に遭ったと証言し、それを見たという証人もいる。

 これらが、どうも偽者とか替え玉だったと疑われる状況を指摘する者もいて、だから陰謀説が囁かれるのだが、しかしこういうことは、よほど決定的な直接証拠でも無い限り裁判とは無関係である。

 なので、裁判の問題となるのは、「犯行」があったかどうか、あったなら誰の行為かということだ。

 原告すなわち検察は、犯行があり被告によるものだとし、そう言えるのは証人と物証があるからだと主張した。被害者がいて、目撃者がいて、被告の指から粘着シートで採取した服の繊維が、被害者のスカートの材質と似ている。

 これに対して、被告弁護側は、被害者と目撃者の証言のとおり犯行が事実だとしても、それは別の人による行為を被告のと間違えたものだと思われ、なぜなら、他の目撃者が証言するには、犯行があった時間帯に被告を見ていたが何もしておらず、ただつり革に掴まり酔っていたのかぐったりした様子だったのをはっきり憶えていると述べていて、また、指に付いていた繊維は、専門家に鑑定依頼したところ、駅員の制服の繊維とよく似ているという結果で、これはその当時に被告が駅員と争ってもみ合いになっていたことから、そのさいに付着したと考えることができる。

 つまり、証言と物証と、どちらもが真っ向から対立しているわけだ。
 
 このような場合は、どちらに信用性があるかの問題となる。証言の場合は、内容が具体的か、あやふやなところや矛盾がないか、他の証拠と辻褄が合うか、など。物証の場合は、鑑定が客観的で公正で正確か、など。

 ところが、先に挙げたような内容によるのではなく、社会的地位によって信用性が判断され、また公平でなく、検察側とか国や地方公共団体など「お上」に偏向するので、日本の裁判は批判されている。
 証言の内容が変でも、刑事事件の場合は警察官だから信用すべきだと言ってしまうし、これが学校のいじめなどの裁判では教師だから信用できるはずだと決めつけてしまう。そんな例ばかりがいっぱいある。
 また、科学的な鑑定でも、同じようにやったのに、検察側でやると採用されて勝訴し、弁護側でやると採用されず敗訴になる。これには、よく法医学者などが怒ったり呆れたりしている。
 
 さて、本件ではどうかといえば、合理性と信用性を比較考量せず、やはり通例どおりに検察側の証拠と主張だけを採用している。通例と同様になったから良いわけではない。間違っているのは通例のほうなのだから。

 なぜ、間違っているか。まず、周知の通り「疑わしきは被告人の利益に」「疑わしきは罰せず」だからだ。ただ疑われただけで犯罪者だと決めつけたらいけないのはもちろん、証拠はあるけれど断定するには合理的な疑問が存在するというなら、無実とは思えなくても無罪にはしなければならない。
 これは、まずは「百人の犯罪者を取り逃がしても一人の無辜を罰してはならない」のが法の原則があるわけだし、それに、そもそも警察や検察は、税金を使って人を雇ったり装備を購入したり、そのうえ権力を持ち強制捜査権や逮捕権まであるのだから、それで仕事した結果が、個人的とか私費とか権力なしの弁護側・被告側と対峙してみたところ、劣勢はもちろん五分五分というのでは許されない。

 このため、本件植草氏の事件も、ほんらいなら無罪となって良いはずだが、通例に従って有罪となった。通例のほうが間違っていることは言うまでもないが、しかし、通例に反して防衛医大教授のほうは、無実が証明されたからではなく有罪とする証拠に疑いの余地があるからと最高裁が逆転無罪として一二審の実刑判決が取り消され、防衛医大は早速に復職の手続きをした。

 これでは、裁判が法だけに従っていて恣意的ではないと言うのは難しいだろう。もちろん陰謀説は否定できないが、しかし、そんなこと抜きにして、もともと日本の司法制度に後進性があり、だから、裁判だけ見ると日本は発展途上国だと言われるのだ。

 
 
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Commented by runner at 2009-06-28 16:07 x
補足させてもらうと、認定されるかどうかは証拠により確実ないしは相当に高度の蓋然性があるかどうかで、そこまで至らなければ素直に判断不能としなければならない。
すなわち無罪だが、「疑わしきは被告人の利益に」「推定無罪」であるべきなのと同時に、裁判は訴えた側に立証責任があり果たせないなら原告敗訴なので被告は無罪になる。
そこに加えて、ご指摘の通り刑事事件は資金力と組織力を備えた公権力により訴えが起こされるのだから、それ相当の責務がある。
すなわち人権擁護の見地から弱者への配慮は大切だが、納税者としての自覚もしなければならない。
Commented by 斗夜英之杜東家 at 2009-06-28 19:18 x
裁判一般にそうなんだが、窮地の人を嘲笑している人がいつも。
植草さんはエリートだから特にここぞとばかり言われるんだろうが。
どう考えるかは人それぞれで良い。ただし、いちおうは無罪を訴えちゃんと証処を出して反論してる人を嘲笑するのは醜い行い。
松本サリン事件の15周年だが、河野さんは匿名で嫌がらする人たちを「そんな人たちは可哀想な人だと思いなさい」と息子に注意したそうだ。
Commented by 夜間二部 at 2009-06-29 10:32 x
これでは防衛医大と防衛医大教授がむしろ可哀想になるよ。
この先、防衛医大が医療ミスで訴えられたとき「裁判所は偏る」と言われるはずだ。
「例の痴漢の教授のことがある。あれは無実が証明されたのではなく証拠不十分で無罪だった。それも一二審では悪質だからと実刑判決だったのに最高裁が同じ証拠で逆転無罪にした」
そして「他の大学教授だと有罪になるのに防衛医大教授は無罪になる。それも、他の大学教授は無実の証拠があっても有罪になり、防衛医大教授は証拠不十分だけで無罪になる」
「怖いね」と言われるよ。
Commented by PCB at 2009-06-30 15:58 x
>どう考えるかは人それぞれで良い。ただし、いちおうは無罪を訴えちゃんと証処を出して反論してる人を嘲笑するのは醜い行い。(略)「そんな人たちは可哀想な人だと思いなさい」

 
そのとおり。権力から迫害されているところにつけ込み便乗して悪口を言うしかないわけだから、実に哀れな人。
Commented by ruhiginoue at 2009-06-30 19:21
 防衛医大の弁護士は、症例も術式も異なるものを複数持ち出して同様だと言い、だから伊藤講師の手術は正しいと主張したうえ、普通ならその主張が正しいかを利害関係のない専門医に訊いて確認するべきなのに、その必要が無いという非常識でした。
 そんなことは、防衛医大なので裁判所は政治的配慮をしろと求めているのでないとできないことですが、さすがに伊藤講師の手術が無茶苦茶だったので、学会でも防衛医大内部からも批判や疑問がありました。
 しかし、防衛医大だから裁判所が偏向するとしか考えられない今回の最高裁の態度は、痴漢と医療過誤は別分野と言っても,それにより防衛医大の医師が「ミスして訴えられても他の大学とはちがって最高裁が守ってくれる」と思いながら患者に対応するようになることが考えられます。そうなれば、ミスが起きる確率も高まるでしょう。
by ruhiginoue | 2009-06-28 11:46 | 司法 | Comments(5)