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by ruhiginoue

安すぎる商品

 複数死者も含めた大量の食中毒事件を起こした店のユッケは280円と安かったので、これを疑うべきではなかったか、という後出しの意見がある。
 たしかに、その値段では、どんなに安い価格より半額くらいなので、有り得ない。また、他の商品で利益を出して赤字を埋める客寄せ商品でもなかった。
 ただ、昔は安い肉というと大量疫病死家畜の死骸から取った肉であるのが相場で、大量食中毒および死亡事故という結果となり、売る奴は許せないが食べるほうが悪いという指摘もされる。安かろう悪かろうで、安物買いの銭失いのうえ命失いとなる。
 しかし、その悲劇からの教訓で、お上の規制が厳しくなり、規制をすりぬけようとしても消費者が排除するようになってきた。だから、その後は安すぎる商品があれば、だいたいフェイク食品つまり見せかけのまがい物であった。他の材料を使い、ソックリな外見で、調味料と香料によって食感と風味は錯覚させる。
 それでも、安ければ飛びつく人がいる。そう言う人たちは、ゼラチンの球体に植物油を入れて、色と香りをつけただけのイクラもどきであっても、軍艦巻きを安くたくさん食べられれば満足なのだ。
 また、ある同級生は、酒と生ハムが大好きだが、酒は味よりとにかく酔うことが肝要で、生ハムは腐った肉塊を削って中心の発酵した部分のチーズのような食感と風味を楽しむものだが、それだと当然値が張るから、肉塊全体を発酵したように見せかけた、食感も風味もない偽生ハムなら安くてすむと食べて、それで満足だから「俺は味覚音痴に生まれて、ほんとうに幸せだ」と言う。
 おそらく、安すぎるユッケを食べた人のなかにも、こうしたフェイクだと思っていて、まさか今どき食中毒死になるとは思わなかったのではないか。
 もちろん、食中毒は今どき希な不運だと言えるけれど、抵抗力の弱い子供に犠牲者が出ていて、食中毒ではなくても、子供には栄養や情操などいろいろと悪影響だから、親が安かろう悪かろうに慣れてはいけないだろう。
 また、味覚音痴で満足していると、子供に食文化を教えることができず、ただ好き嫌いしないで食べろと言う躾下手になってしまうし、配偶者は食事の支度をする意欲が減退するし、大学生くらいの時期には若さにまかせて騒いで楽しくても、いずれは落ち着いた楽しみや嗜みを憶えるものなのに、それができないでいると付き合う友達が減り、仕事の愚痴と自棄酒しかできなくなってしまうものだ。

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by ruhiginoue | 2011-05-10 23:28 | 経済