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by ruhiginoue

『タッチ』再放送

 例外と言ってもいいほど熱心にテレビを今見ているのがアニメ『タッチ』の再放送で、作品もそうだが、それ以上に人柄を大好きな杉井ギサブロー監督が総指揮をしている。
 大人気作品だから何度目の放送かわからないけど、あらためて観ると細かい配慮に驚く。

 この作品は主人公が野球をしている。野球の漫画とそのテレビアニメ化なら、まず『巨人の星』で、これら梶原一騎の作品は、手塚治虫が読んで真面目に「何が面白いのか」と言ったものの、日本人の情念と高度成長時代にマッチして大人気だった。
 
 『巨人の星』は、主人公の父親が元職業野球選手で、戦争で負傷したため辞めざるを得なくなり、そこで息子に期待し、工事現場の重労働で生活しながら自ら指導したうえ野球部が強い名門私立高校に進学させ、主人公は甲子園で活躍したあと中退して巨人軍に入り、体格に恵まれないため奇想天外な「魔球」を編み出して活躍するという話だった。

 これは、敗戦のどん底から這い上がる日本と重なっていた。だから働き詰めの大人たちのほうが夢中になっていたと言われる。しかし中東戦争によって起きた石油危機によって、日本経済の成長は致命的大打撃を受けて未曾有の不景気となった。
 そして『巨人の星』は、無理な投球を続けた主人公が、腕の筋肉が切れて選手生命を断たれるという結末であった。

 それでもまだ、梶原一騎の作品に信奉者は多く、そこから影響を受けてしまった人たちが指導者になって、少年スポーツを荒唐無稽と精神主義で汚染したと批判された。
 これに対して野球漫画『ドカベン』が否定を試みた。主人公は実力はあってもスーパーマン的ヒーローではなく、チームメイトの珍打法などギャグとして描かれる。これはアニメ化と実写映画化され、たいへん人気が出た。
 しかし『ドカベン』は、過去のスポーツ根性ドラマに対して、多少のアンチテーゼとなっただけだった。とどめを刺したのは『タッチ』だった。

 『タッチ』は80年代に入っての作品であり、70年代までの精神論を真っ向から否定するものだった。そして原作の漫画がもともと人気のうえ、テレビアニメ化にさいして「手塚治虫がもっとも信頼していたアニメーター」であった名匠・杉井ギサブロー監督を総指揮に起用し、緻密な映像描写としっかりした物語構成によって大ヒットする。またヒロインの声が大人気となり、演じたタレントの日高のり子はすっかり声優としてのほうがよく知られるようになる。
 
 その前に、高度成長時代でアンチテーゼとなっていたのは、あの牧歌的な『ムーミン』だったと、高畑勳監督が指摘していた。そして宮崎駿監督と一緒に牧歌的な『アルプスの少女ハイジ』を作る。
 高畑勳監督は、東映動画の労使紛争で宮崎駿監督と出会い、組合で意気投合した。しかし、これに馴染めなくて退社したのが杉井ギサブロー監督だった。
 
 杉井ギサブロー監督の放浪の話は最近知ったのだが、渋谷の映画監督協会の催しでお目にかかったさい、温和な笑みとともに名前だけ真ん中に書かれた名刺をいただいたときは、すっかりムーミンになった気分だった。
 「ぼくムーミンっていうの。君は」
 「スナフキン」
 「どこから来たの」
 「あっち、さ」
 「どこへ行くの」
 「こっち、さ」
 そんな、超越したものを強く感じたのだった。それを思い起こしながら『タッチ』を観ている。

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by ruhiginoue | 2012-11-09 20:05 | 映画