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by ruhiginoue

ストーカーの不可解な行動について

 作家の山崎朋子が講演をしている音声をラジオが放送していたことがあったそうで、それを知り合いがたまたま聴いて、そもそも話の内容に興味があったわけではなく、講師についても名前を知っている程度だったが、つい聴き入ってしまい、そのまま最後まで、ということになったそうで、それは非常に話し方が上手だったからだ、と言っていた。
 もともと山崎朋子は芸能志望だった人なので、喋繰りが得意なのかもしれない。

 かつて山崎朋子は、雑誌のモデルをしながら女優を目指していたが、ストーカーに襲撃されて重症を負い、顔が傷ついたので断念したという。当時は傷を縫うのにナイロン糸が実用化されていかったので絹糸が使われ、これは生物によるものだから身体が拒絶反応を起こし、縫った場所が悪化するという悲惨な状態になってしまったそうだ。
 この犯人の男性は、当時二十歳代の山崎朋子が働いていた喫茶店に来て、そこでウエイトレスをしていた彼女に好意を持ち、それでいきなり刃物で斬り付けたという。これを警察から聴いた新聞記者たちは、フラれたからだと勝手に解釈したようだ。それなら確かに解かりやすい。そこから、交際を申し込んで断られて逆上したとか交際していて別れ話がもつれたとか、さまざまに書かれてしまった。
 こうした記事を読んで、山崎朋子は驚き呆れ困惑したという。交際を申し込まれていないから、当然ながら断っていないし、まして別れ話なんてわけがない。

 こんな経験をしている山崎朋子も、自分が書いた本では勝手な解釈を事実としてしまっていた。
 その代表作で映画化もされた『サンダカン八番娼館』で「からゆきさん」と呼ばれる外国へ娼婦として売られた女性の悲劇を描き、また抑圧された女性をライフワークとしてきたが、その後『サンダカンの墓』で「からゆきさん」たちの墓標はみな日本に背を向けた方向に立っているので、自分を売り飛ばした故郷にはもう未練がないということだと書いていた。
 ところが、これを朝日新聞の本多勝一記者は、読んだときはそうなのかと思ったが、実際にその場に行って見たら、墓地が急斜面にあるため墓標を反対側に向けて立てたら表側が地面に向いてしまうという立地条件で、だから、この場所の急斜面に立っている墓標は、日本人以外の墓もすべて同じ向きであったそうだ。
 そして、このような場合は、あたかも、そうであるような感じで、みな背を向けて立っている、というように記述するべきだと指摘していた。(『ルポルタージュの方法』朝日文庫)

 これは取材して書くことの姿勢と技術の問題で、不明なら、あくまで主観的印象であるとか、あくまで誰かの推測であるとか、そういう書き方をしないといけないということだろう。
 ただ、不明である対象が心理それも異常心理となると不可解すぎて、つい勝手な解釈をしてしまう失敗をしがちである。山崎朋子が斬られた記事については、警察も記者も理解できなかったのではないだろうか。
 今なら不十分とはいえ昔よりは理解できる。それでも、多くの人たちは、一方的に好意をもって、それを打ち明けて、その結果によってどうするか、ではなく、好きになったからいきなり危害を加える、という心理に対して不気味とか怖いとか感じるばかりで、分析するどころではない。
 そして、対応する警察でも、よく判らないから、正しい対応をしたり指導したりもできないということになってしまうのだろう。


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by ruhiginoue | 2017-03-05 18:38 | 社会 | Comments(0)