『キャリー』と某宗教団体
2017年 05月 16日
『キャリー』の映画化をテレビで観て、のちに小説を読んだら、小説のほうがよかった。これはキングの小説では毎度のことで、ただし『ファイアースターター』ほどひどい映画化ではなかった。実はリメイクされた『キャリー』は未見である。
この『キャリー』という小説はスチーブンキングの出世作だが、この小説では主人公の母親が宗教にはまって狂信的だったため娘が抑圧されていることに特徴があった。こうした狂信的な母親はキングの他の小説にも描かれるが、特に『キャリー』は話の核になっている。
そうした『キャリー』が他人事ではなかったという人は珍しくない。それだけ自分の信仰を子供に強要する親がいるということだろう。その程度には差があるけれど、うちの母親は特にひどいほうだろうと思う。
この母親が一時はまっていた宗教団体の開祖が、数年前に死去したとネットで知った。そして次男坊が後を継いだが、先代からの側近が出て行ってしまうなど団体の運営は難航していると聞く。しかし開祖は生前、後継者は長男と長女だと言っていて、この二人はその人柄から好かれていた。なのにどうして次男なのか。この次男はそう人望があるわけではないのに。
そうしたら、教団が隠蔽していた事実が発覚した。開祖より前に、長男と長女が相次いで死去していた。それも、まず長女が病死し、続いて長男が交通事故死ということで、年齢からしてどちらも早死にであった。
この教団では、病気や事故などの災いはすべて悪い霊の仕業だから、それを取り除き寄せ付けないというのが教義のすべてだった。しかし、癌も治るなどと説いて十万円もの講習料を取りながら治らないという苦情があり、詐欺ではないかと批判が出ていた。そこへ、中心となっていた後継者が開祖より先に早死にしたのだから、脱会する人が次々と出た。当然だろう。
この団体の機関誌や開祖の著書は母親が持っているものを詳しく読んだが、語り口は上手いので信者が集まるのは理解できた。しかし程度と品位の低さが感じられた。
その一例を挙げる。
「人を呪わば穴二つ」という諺があるけど、この開祖の解釈とは、人を呪って危害を加えて殺害も可能だが、対象のほうが霊的に強いと撥ね返されてしまい自滅につながるというものだった。
そして彼は子供のころ、親が兄弟ばかり可愛がり自分はのけ者だったという体験を語り、美味しいものを自分だけ食べさせてもらえなかったことで憎しみの念を向けたところ、親兄弟は腹痛に見舞われたから痛快だったとし、子供だと思っていても念力が強ければ大人も負けると説いた。ただし、それで自分が強いと思っても、もっと強い者もいるから呪ってはいけないと戒めていた。
しかし、こうした類の宗教の基になる「心霊」の代表的な教えは「シルバーパーチ」と呼ばれるアメリカ先住民の口を借りたとする正体不明の霊魂の言葉であるが、これも呪いや憎しみは神の摂理に反していると定義し、呪ったり憎んだりしてはならないと説いて、それをやってしまうと自らに災いが起きると戒めてはいるものの、その理由が異なる。
それによると、悪い人とか嫌な奴がいて、それを呪ったりすれば念とか霊の力によって倒せるなら、なにも苦労はない。そして、人の悪口を言うと自らの品性を貶め、そういうことで面白がる人しか寄って来なくなるのと同じように、呪ったりしていると自らの霊の格が下がり高級霊を遠ざけて低級霊ばかり近寄ってくる。そうなると当然、自分の身に災いが降りかかる、ということだ。
この両者を比較してみれば、シルバーパーチが語った言葉は崇高だし、霊とか宗教とか一切信じない人にとっても好感が持てるものだけれど、当団体の開祖の話は抑圧された子供にとっては痛快のようであるが、小さくても強いかもしれないから注意しろとか、自分より強いかもしれないから気を付けろとか、ようするに不良かヤンキーの発想と態度だ。
こういうことを感じたので、そんな品の悪い宗教団体を信じるのは愚かで、共感している人は下品な感性の持ち主だと思ったのだった。
by ruhiginoue
| 2017-05-16 18:14
| 文学