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by ruhiginoue

橋本忍の『私は貝になりたい』と笠原和夫の『大日本帝国』

 『私は貝になりたい』が中居正広主演で映画化するそうだ。
 物語は周知の通り。原作は黒澤作品で知られる橋本忍の脚本。最初は白黒テレビ作品でフランキー堺主演。90年代には当時黒澤明監督の「まあだだよ」で俳優として乗っていた所ジョージ主演でリメイク。今度はテレビではなく映画化ということに。
 庶民が戦争に巻き込まれる悲劇というのは表面のことで、奥に隠された主張がある。
 捕虜の米兵を刺した主人公が戦犯として裁かれる。杜撰な通訳と無理解な外人による一方的な裁判を批判的に描いているため、最初の放映では「アメリカを怒らせるからやめろ」と圧力がかかった。
 しかし、なぜ無茶苦茶な裁判となったのかを、むしろ問題としている。
 主人公は、無抵抗の者を殺害するなんて出来ないと拒否の姿勢を示すが、残酷な上官は言うとおりにしろと迫る。「上官の命令は天皇陛下の命令」だから反抗も疑義も許さないというのが日本軍の掟だった。
 「あなたは天皇に直接命令されたのですか?」と問う白人判事に、なにもわかっていないと嘆く主人公。召集令状(赤紙)一枚で有無を言わさず呼びつけられる兵士は軍隊でどんな扱いをされるか。「牛や馬とおなじなんだ」と法廷で叫ぶ主人公は結局わかってもらえず絞首刑にされる。だからこう遺言する。
 「生まれかわれるとしても、もう人間には生まれたくない。動物も、人間からひどいめに遭わされるから嫌だ。私は貝になりたい。貝になって海の底で静かに・・」
 つまり、東京裁判の理不尽を批判しながら、その原因は、外国からは想像を絶する日本の異常性にあると告発しているのだ。
 この影響を受けたのが、橋本忍と双璧ともいえる名脚本家の笠原和夫だった。『大日本帝国』(82年)は、主人公が床屋なのが『私は貝になりたい』と同じ。題名など表層では戦争正当化の軍国主義映画だが、しかし笠原和夫は最高傑作『県警対組織暴力』で、警察が暴力団を退治する話かと思う題名ではあるが実は暴力団の背後に財界がいたり、ヤクザとなれ合う腐敗した警察とか、退治するべきなのはヤクザよりアカとうそぶく警官などを描いて、痛烈な社会批判をこめた人だ。戦争美化のようでいても同時に庶民の立場から戦争の悲惨さを描き出した。
 そして一方的な裁判で戦犯とされ絞首刑になる東条英機を悲劇の人と描き、靖国派を歓ばせ左翼からは非難されながら、実は物語の構造から、東条は昭和天皇の身代わりにされたことが明らかで、同時に、同僚が虐殺するのを黙認した罪で戦犯として処刑される一兵士に「天皇陛下、お先に参ります」と刑場で叫ばせる凄い当てこすりをしている。 
 
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by ruhiginoue | 2007-05-23 12:25 | 映画 | Comments(0)