井上靜の気楽な日誌です。コメントよろしく。おたよりはe-mail:ruhiginoue@excite.co.jpまで


by ruhiginoue

「敗北の文学」

 芥川龍之介の遺失したと思われていた遺書が発見されて公開。
 彼の自殺について、共産党の指導者となる宮本顕治が「敗北の文学」と論じて論壇誌のコンクール一位となり、保守派の小林秀雄は二位だった。このため文芸春秋など保守派の論壇では、共産党に対するコンプレックスをひきずり、そこからさらにヒステリックな左派攻撃をすることになる。
 宮本が言うには、理想主義者で進歩的で反権力だった芥川は、現実との乖離に絶望して負けたということだった。
 しかし、松本清張はもっと辛辣だった。芥川の自殺はゆきづまりではあるがネタ切れによって作品が書けなくなったにすぎず、哲学的な要素はないということ。
 松本が正しい。芥川の作品は数学の公式のように正しいが、そこへ代入する数値がなかった。これではすぐにゆきづまる。
 学校秀才で社会経験が乏しかった芥川に対して、松本は貧しくて優等生だったけれど進学できず、これが就職にも響いて朝日新聞の正社員になれなかったがジャーナリズムで活躍した経験から社会を観察し、文春にもっとも多く書いた作家であり左翼からは「しょせんは体制イデオローグ」と言われながらも社会派作品を量産した。
 宮本も文筆だけでなく政治家となり現実社会と向き合った。
 芥川は少年のときに夢中になった人は多いが、大人になってからも読む人は少ない。社会経験のない作家の作品は、読者に社会経験ができるとそっぽを向かれる。
 そして、うちにとじこもって小説ばかり読んでいる文学青年のものであることは、芥川は三島由紀夫とおなじであった。三島は社会的に認められたかったけどノーベル賞に落選して政治活動を無理して行い自殺。欲しくなかったけど受賞してしまった川端康成は弟子にうしろめたくて、政治に無関心なのに選挙で自民党の候補を応援したあげく自殺。
 「敗北の文学」ではなく文学の敗北である。というか、そもそも文学なんて青少年向けのもので、社会人になったら卒業して現実を生きるものだろう。松本清張でさえ、夢中になって読むのは比較的若いうちである。 
 
 
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Commented by 禁煙中 at 2008-07-20 13:22 x
>そもそも文学なんて青少年向けのもので、社会人になったら卒業して現実を生きるものだろう。

これは正しくは「純文学」だと言い換えたほうがいいと思いますね。
文学の定義は広いし、娯楽も含みます。つまり、文学の中には映画やテレビ番組のようなエンターテイメントと同質のものもある。「映画は青少年向けのもので社会人になった卒業するものだ」とは言わないように、文学もまた映画やテレビ同様、人が一生付き合っていくものだと私は思います。松本清張は大人になってから読んでさらに凄さ・面白さが分かるという人はたくさんいます。むろん、そういった人たちはちゃんと社会で働き、日々現実と向き合っている人たちです。
Commented by Re:Q at 2008-07-22 17:24 x
今は文学が流行らない時代ですからねぇ。
でも、文学そのものの意味は凍結されているだけで、
読む人が読めば即座にその意味は立ち上がるものだと思います。
語るに落ちているのは文学の方ではなく、
むしろ今の私たちの現実の方なのかも知れませんよ?


Commented by ruhiginoue at 2008-07-23 08:28
 たしかに、古典だった「蟹工船」がまたベストセラーになったくらいですからねえ。
 
Commented by ちょっと横レス at 2008-07-23 19:22 x
>たしかに、古典だった「蟹工船」がまたベストセラーになったくらいですからねえ。

これがまさに文学などの物語の普遍性じゃないでしょうか。
松本清張の作品も今でも全然色あせていないものがおおいですね。
Commented by もょもと at 2008-07-24 01:13 x
もう30なのに本ばっか読んでてごめんなさい。
Commented by 驚愕者 at 2008-07-24 05:53 x
いやいや、「蟹工船」に普遍性があったのではなく、もうあんな時代は終わったはずなのに再来してしまったことが問題なのだ。
蟹工船はヤクザな手配師が劣悪な仕事を斡旋し、これを資本家も利用して犠牲のもとで利益を上げていた。
だから戦後は法規制がされたのに、最近また規制緩和してしまった。財界の圧力だ。そこで派遣業者が偽装請け負いとかあくどいことをはじめる。
文学の普遍性とは人間の本質に迫るからあるのだが、その社会背景が過去のものになれば廃れていく。
それが廃れたはずなのに社会背景が復活してしまった。とんでもないことだ。
Commented by 尾崎奈苗 at 2008-12-08 01:22 x
この記事を書いたライターさんへ。

宮本顕治さんの論文のタイトルは、正しくは、
『「敗北」の文学』
です。
Commented by ruhiginoue at 2008-12-08 12:27
 括弧付け忘れてました。意味がやや変わってしまいますね。ご指摘ありがとうございます。
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by ruhiginoue | 2008-07-19 01:17 | 文学 | Comments(8)