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by ruhiginoue

遊星より愛をこめて

 今年も、原爆の日がやってきた。
 一部で知られていることだが、『ウルトラセブン』が1話だけDVDから欠落しており、それは原爆がらみであった。
 いわゆる「12話問題」である。12話「遊星より愛をこめて」は、宇宙人が地球人の血を採取してまわり、そのため死者もでる。その宇宙人は、新型核爆弾を誤って爆発させてしまい、この汚染により身体が蝕まれてしまっていた。そこで、治療薬の開発のため地球人の血を利用しようとする。そんな話だ。
 ところが、これが被爆者団体から抗議を受けてしまう。被爆者を差別するものとして。ただし、放送された時ではない。『ウルトラセブン』は言うまでもなく大変な人気番組で、最初の放送では毎回の視聴率が30パーセント代、その中でも12話は第4位の視聴率で、再放送もされている。それだけ多くの人が見ていて、当然に大人の目に触れているはずだ。しかし問題になってはいなかった。なったのは、子供向け雑誌「小学館の小学二年生」の付録「怪獣カード」で、その宇宙人を「ひばくせいじん」と説明してあったことがきっかけだ。これにより、小学館に抗議が行ったが、そもそも番組製作したのは円谷プロであり、しかも小学館は円谷プロから提供された資料に基づいて付録作成していたから、主に円谷プロの責任ということになる。
 抗議を受けた円谷プロは、そのことが雑誌新聞の記事にもなってしまったことから、騒動を収拾するため12話は欠番として、今後再放送せず、ビデオでもDVDでも収録しないことにした。
 しかし12話は核の恐ろしさと平和共存を訴えた内容であった。悪役の宇宙人は、新型核爆弾を開発したうえ、爆発で被害を受けたら地球人を犠牲にして自分たちが生き延びようとする。それを悪役として描き、ここから現在の世界の核軍拡も暗に批判する意図であった。
 だから、原作者である脚本家の佐々木守氏は、「“ひばくせいじん”なんて書いたら問題にもなりますよ」と言いながらも、あくまで原因は雑誌だとしていた。彼は左翼を自認していたし、そうした経歴である。それは常にドラマにも反映していて、12話の意図は反核と反戦だし、被爆者団体の抗議はもっともとしながら、問題はあくまで雑誌が作ったと言っていた。
 実際に、抗議した被爆者団体も,ドラマには問題はなく、むしろ平和を訴えるものだから封印はやりすぎではないかと言っていた。しかし円谷プロとしては、タイアップ先の雑誌に責任を押し付けることは出来なかったはずだ。もとの資料を作って渡していたし、商売としても貴重な取引相手である。
 それに、「ひばくせいじん」の記述だけなら、ただドラマの内容のとおりであるだけだが、この宇宙人のデザインは悪役らしく不気味な面構えの怪人で、しかも身体の所々に醜いケロイドがある。そこへ「ひばくせいじん」では差別と言われても仕方ない。
 脚本では、カブトムシのような姿の昆虫型と記述してあり、ケロイドは無かった。このケロイドは、演出を担当した今は亡き実相寺昭雄氏の注文であった。これにデザイン担当者は反対だった。ウルトラマンその他のデザインをした成田亨氏の考えでは、そのように生理的嫌悪感をもよおす傷病をモチーフとすることは、ウルトラ怪獣デザインのポリシーに反するということだった。しかし、監督に押し切られてしまい、嫌々ながら造形担当の人に適当にやってくれと指示したら、それでいいのかと怪訝そうにされたと証言している。
 つまり実相寺監督としては、核の恐怖を強調したかったらしいが、それで逆に被爆者たちから抗議を受けてしまったのだ。これは監督の悪趣味とか、創作家としての発想の薄っぺらさだと言う指摘がある。宇宙人が悪役たるのは、そのエゴイスティックな発想と行動である。被爆して地球に避難してきただけならケロイドが悲惨さの表現ともなるが、さらに悪事を重ねる奴の醜い姿の表現に、被爆被害の象徴ともいうべきケロイドを利用することは、ドラマ本旨からの逸脱でしかない。
 こうした経緯から、いろいろな論争となっている。「プロ市民が騒いだから悪い」と単純に決めつけてお終いのネットウヨは論外だが、もともと独特な演出で賛否両論の差が大きい実相寺監督であるから、そのファンとアンチの人たちとで、しばしば言い争いになっているし、放送上の表現と人権問題としてもシリアスな議論になっている。
 製作の円谷プロは、パンドラの箱を開けたくないという態度である。そして、当方としては、八月の原爆忌にあたっての雑誌の記事にしたいので、ウルトラシリーズの製作に携わってきた一方でマスメディアと人権の問題に取り組んで来た山際永三監督にご意見を伺いたく、お願いをしたのだが、断られてしまった。『ウルトラセブン』の当時はまだ関わってなく、その12話は観ていない、ということであった。
 たしかに、山際氏が関わったのは『帰ってきたウルトラマン』から『ウルトラマンレオ』までの「後期ウルトラシリーズ」であるし、12話は円谷プロが封印したも同然な状態である。
 しかし、製作に関わっていないから客観的になることができるし、実は海外の動画サイトには「流出もの」として12話があちこちで投稿されていて、そこで観ることができるからと、具体的にアドレスをお伝えたのだが、そうしたら何度お願いしても今度は返事なしとなってしまった。
 これは、放送と表現と人権と戦争と平和などの点で重要な問題なのだが、しかし、山際監督としては、実相寺監督と特に親しく、また円谷プロの仕事も実相寺監督の後がまのような形だったそうだから、何かと発言しにくいのではないだろうか。それに円谷プロとの仕事上の関係もある。
 そうしたお立場もあろうから、それをこれ以上しつこくすると、山際氏は他のマスメディアとくにテレビはさんざん批判しておいて、自分と関係がある所が相手だと触れないようにしているという批判をこちらがしたことになってしまう。それではまるで大江健三郎氏を批判する本多勝一氏である。反核に熱心と言いながら反核運動を誹謗する文芸春秋社に、抗議の意味で文学賞の選考者を辞任しながらそれを公言せず、つまり商売を気にして言いたいことも言えないのではないか、という、例の問題みたいになってしまう。
 そこで仕方なく、これはいったん諦めることにしたのだった。

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by ruhiginoue | 2009-08-09 13:51 | 社会