「自分の身体を売って何が悪い」

　91年に、東京都の渋谷区などを選挙区とする議員選挙で替え玉投票事件があった。自民党候補の運動員が仕組んだことだったが、同区内にある聖心女子大の寮に郵送された投票権が利用されており、頼まれたからと平然としている女子大生に、「自分のものだったらいいの?それなら売春もいいことになるよね」と捜査担当警官が言うと、その女子大生は「それはいけませんわ」と赤面して言ったそうだ。
　「まったく、お嬢さまだな」と警官は呆れたそうだが、この報道で当事健在だった筑紫哲也氏が指摘していた。聖心女子大は皇后の母校であり名門私立女子大の代表格だけど、だから礼儀とか躾けには熱心だが、社会の一員として市民としての教育はお留守だったのではないか、と。
　この話を久しぶりに思い出したのは、児童ポルノ事件の犯人が未成年者当人である場合があるという警察の発表があったからだ。それによると、１８歳未満の少女が自分の裸の画像を売るケースが警察の捜査で確認されるようになり、児童ポルノ提供の疑いで逮捕された高校生もいて、その背景には携帯サイトで見知らぬ相手と簡単に“商談”できることが背景にあるらしいとのこと。
　そして、「こういう行為は犯罪だと教えないと、安易な小遣い稼ぎが広がる恐れがある」との指摘もあるのだが、そもそも児童ポルノが犯罪とされるのは、被写体にされた児童への人権侵害だからで、では当人がもしも納得して売った場合はどうなのか問題になる。小遣いが欲しいことから始まり，進学したいけど親がリストラとかワーキングプアで学費が欲しいということもあるから、それでもいけないと言い切れるのか。道徳とか倫理は価値的命題だから、人それぞれだ。
　しかし、未成年では判断力が未熟だから、酒やタバコと同じでまだ駄目だということなのだが、ではその判断力とは何歳で備わるのか。大人にも判断力が乏しい人がいて、子供に劣る人だって大勢いる。
　それを言ったら、なにより参政権が問題になる。アルコールやニコチンのような有害物質を摂取するのではないし、政治の影響をもっとも強く受けるのは子供であり、大人より真面目に考えて、利権に目がくらむことも極めて少ない。二十歳すぎた聖心女子大のお嬢さまよりきちんと参政権を行使できる小学六年生なんて大勢いる。
　こうしてみると、単に違法だから駄目と言うだけでは本当の解決にならないことがわかる。自分の権利と自由、社会の一員としての自覚、それらの関り方まで教えないといけない。それがなく、ただ禁止だから駄目というだけでは、聖心の躾け礼儀と同じになってしまう。

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