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井上靜に関するblog(網誌)です。下記の著書を読んでもらえたら嬉しく存じます。


by ruhiginoue

金か名誉か

 裁判は決闘の伝統が反映しているので、名誉のために闘うとの要素がある。これは名誉毀損罪や侮辱罪で賠償請求するのとは異なる。
 また、復讐や報復とも異なる。無念の思いを社会の中で公的に認めさせることで、名誉と気位を取り戻すのだから。
 その点、自分が裁判経験した防衛医大との医療裁判では、裁判長が途中で代わっているのだが、裁判長の対応が対照的だった。
 最初の裁判長はたいへん同情的な態度であったが、だいたいの事実関係を調べて確認すると和解を薦めた。見舞金のような性質であり、国を断罪する気はないようだったが、裁判所から勧告があったのだから、それ相当の和解金を提示するよう、国=防衛医大に進言した。
 これに国の側は惹かれたようだったが、防衛医大は難色を示した。そうしているうちに、異動で裁判長が交代した。
 次の裁判長は、明確に判決する方針をとった。そして、最低の賠償金額だったが、防衛医大を見事なほど断罪して国側の責任を全面的に認めた。この裁判長は後に、東京大気汚染訴訟でも同様だった。どうしても認められる範囲で最低の賠償とし、少なすぎると控訴されたのだが、いちおう国の責任を認めていた。
 最初の裁判長の言う通りにしたら、多額の和解金が手に入った可能性がある。
 しかし国の責任はあやふや。金で楽はできるが、悔しい気持ちはそのままで、問題の医師は安泰である。
 そうではなかった。乏しい賠償金だから、経費など差し引いて金はほとんど手元に残らない。労力なども考慮したら収支決算は大赤字である。
 しかし、国の責任が認められたから、画期的と騒がれて新聞とテレビで報道された。そして問題の医師は、学会で非難され、追われるように大学を去り、個人で経営しはじめた診療所は商売敵たちに判決と報道をネタに叩かれ、今では千葉県のたいへんな僻地に行き、それまで専門を自称していた分野とはほとんど関係がない診療をやっている。
 この結果は、ぜんぜん金にならなかったけど、精神衛生上はたいへん良かった。あとは、人それぞれ、思うことや価値観や事情によるだろう。

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by ruhiginoue | 2013-02-20 22:16 | 司法