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by ruhiginoue

『青い山脈』の杉葉子さん死去の報

 俳優の杉葉子さん死去。
 『青い山脈』ヒロイン役が特に知られている。長身で水着姿が話題になり貼っていたポスターがたくさん盗まれたそうだ。このため、映画が大ヒットのうえ当たり役だったから、後に成瀬巳喜男監督など名匠たちの作品に何度も出ているのに『青い山脈』が代表作のように言われてきた。

 原節子や京マチ子が95歳没など「美人薄命」とは限らないと言う話題を先日とりあげたが、90歳没の杉葉子は長身でかっこよかったけれど美人とは言えなかった。
 それで『青い山脈』の今井正監督は杉葉子に言ったそうだ。「キャサリン=ヘップバーンのような個性の強い女優になりなさい」と。

 また、今井正監督はよく女優たちからダンディなオジサンと言われていたけれど、キザという感じではなかった。これについて杉葉子は、表面的に穏やかだけれど左寄りの信念を秘めているので、そこも尊敬されていたと証言していた。

 今井正監督は研修中に原節子の『新しき土』で助監督をしたそうだが、そのあと監督した作品に何度も原節子が出ている。
 そのなかに『望楼の決死隊』があった。戦時中に戦意高揚の映画しか製作できなくなったからだ。戦争に協力してしまったから恥じていると監督は言っていたが、観た人たちは「これはプロパガンダではなく完全に娯楽の活劇だ」と一様に言う。

 それを言ったら『青い山脈』も、ここでは原節子が進歩的な教師の役で「戦後民主主義」を謳歌してはいてもあくまで学園ドラマ・青春ドラマである。
 そして戦後民主主義を謳う主題歌は大ヒットしたけれど、今井正監督は気に入らないと言い続けていた。演出はアメリカの『ミネソタの女』を手本にし、主題歌は『巴里祭』のような洒落たものにしたかった、と。

 また今井正監督最後の『戦争と青春』は、早乙女勝元原作の東京大空襲の話だが、高齢になったので艶っぽい絵が撮れなくなってきたと言って仕事に積極的でなかったのを、原作者がぜひ今井正監督にと希望した。
 そして自らの発案で一人二役を熱演した工藤夕貴は受賞したりであったが、その今どきの女子高生が、戦争で引き裂かれた男女の話を知ると、この悲劇を学校で同級生たちについロマンチックに語るし、樹木希林のふんする担任教師が「私たちは戦争を知らない世代」と言ったら生徒たちが「えーっ」と疑問の声をあげるので先生が年寄り扱いに反発したりで、こんな場面がむしろ面白いから、やはり『青い山脈』の監督だと観客は実感した。
 
 今井正監督は、東京大学も東宝映画も自ら辞めたと言ってた。
 よく、左翼運動に参加したため東大を辞めさせられたとか、レッドパージに遭って東宝を首になったとか、そのように言われるが誤解だそうだ。
 政治的な理由で検挙されたため東大を停学処分とはなったが、サラリーマンになるつもりがなかったので退学届を出したと言い、その受理の通知は保存していて公開もした。
 レッドパージでは一時干されただけで、『青い山脈』が大ヒットして前後編だからとギャラ二本分もらうなど良い待遇だったのに、東宝に辞表を出したそうだ。同じ敗戦国なのに、イタリアのネオリアリズモのような映画が日本は作れないからだった。

 そういうことも考えて『青い山脈』を観ると、また面白い。
 今、動画サイトにある。これだからTSUTAYAなどがどんどん撤退しているのだろう。そんな中で、往年のスターたちが次々と亡くなっている。

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by ruhiginoue | 2019-05-24 05:41 | 映画